愛知音楽研究会は、中部地方にかかわりのある音楽に関連する研究者が互いに研究成果を発表し、
議論を交わして励まし合う場として結成されました。
音楽に関係する様々な分野の研究者が一堂に会し、幅広い視野で考察し柔軟な思考で研究を展開していくことを
目標としています。
活動は、1~2か月に1回行う研究発表会が中心です。発表に対して意見交換の時間を長く取り考察を深めるようにしています。
よき議論・研究を中部地区から発信したいと考えております。
音楽に関する研究者だけでなく、どなたもご参加いただけます。皆様のご参加をお待ちしております。
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会場:名古屋市立大学 北千種キャンパス 音響デザイン室(13:00~16:00)
担当・司会:山口真季子
研究発表:
山本宗由 石川貴憲
「服部良一のサクソフォン作品研究」
七條めぐみ
「昭和期『名古屋新聞』の音楽関連記事の調査報告」
山本宗由さんと石川貴憲さんは、服部良一が1941(昭和16)年に作曲した《サキソホン・コンチェルト》(楽譜や録音の所在は不明ながら、
日本人が作曲した最初のサクソフォン協奏曲と推測される作品)に着目して研究を進められており、
コンサートのパンフレットの情報から戦前のみならず戦後にも演奏されている事実を示されました。
またこのコンチェルトの意義を検討するうえで、服部良一のサクソフォンやクラシック音楽との関わり、
クラシックとジャズを融合した「シンフォニック・ジャズ」への志向に加え、
日本におけるサクソフォン受容の状況やジャズが敵性音楽とされていた作曲当時の時代背景についても説明されました。発表後には、
テレビ局や新聞社を通じた楽譜や録音に関する情報収集の可能性、当時の日本におけるジャズの概念についてなど、
活発な意見交換が行われました。
七條めぐみさんのご発表は、「昭和期『名古屋新聞』の音楽関連記事の調査報告」と題して行われました。七條さんは、
2012年から井上さつき先生(当時、愛知県立芸術大学教授)指揮のもとで行われた「鈴木政吉プロジェクト」を引き継ぎ、
同プロジェクトで未完了だった昭和期の『名古屋新聞』の音楽関連記事調査を進められています。今回の発表では、
これまでのプロジェクトの経緯と、2022年から「続・政吉プロジェクト」として行われた、
未整理で残された収集済み記事の一覧作成とファイリングにあたっての方針や浮かび上がってきた問題点について説明されました。
また記事に登場する音楽の傾向や多様なラジオ番組についても実際の記事のコピーを用いて紹介されました。参加者からは、
抜けのある期間の調査やデータベース化など、プロジェクトの今後の展開についてさまざまに意見や情報が交わされました。
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会場:名古屋市東生涯学習センター 第1集会室(9:30~12:30)
担当・司会:明木茂夫
研究発表:
森本頼子
「パーヴェル1世(在位1796-1801)によるオペラ上演活動の再考――西欧でのオペラ体験からロシアの宮廷劇場へ」
山口真季子
「D.シュネーベル《シューベルト・ファンタジー》再考(その2):1989年の改訂を中心に」
森本さんのご発表は、ロシア皇帝パーヴェル1世(1754~1801)の宮廷におけるオペラ上演活動について、
皇太子時代から在位期間にかけての数多くの資料を参照しつつ解明するものでした。パーヴェル1世は皇太子時代の1781年から1782年にかけてウィーンやイタリア、
フランスなど西欧に滞在し、その間多くの音楽家と交流して、様々なオペラを観劇しました。
森本さんのご発表ではそうした西欧での体験がロシア宮廷におけるオペラの上演活動にどのように反映されたかを検証し、
それがその後19世紀のロシア音楽にどのように繋がったのかを考察されました。ロシア音楽史の1ページを埋める意欲的なご研究だったと思います。
山口さんのご発表は、ドイツの作曲家ディーター・シュネーベル(1930~2018)の管弦楽作品「シューベルト・ファンタジー」について、
その初出と1989年の改訂とを比較し、その改訂にどのような意図があったのかを検証するものでした。この作品はシューベルトのト長調ソナタD894を管弦楽に編曲し、
そこに「Blendwerk」と名付けられた弦楽合奏による音響のベールを重ねたもので、山口さんはシュネーベルが改訂に際して行った改変
(そのほとんどが初出に対する削除)がどのように行われたかを丁寧に検証され、そしてそれをシュネーベル自身の著作の記述と照らし合わせつつ、
その改訂が彼の音楽思想のあり方ともシンクロしていることを論じられました。